大判例

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名古屋高等裁判所 昭和27年(う)1387号・昭27年(う)1389号・昭27年(う)1384号・昭27年(う)1380号・昭27年(う)1388号・昭27年(う)1379号・昭27年(う)1383号・昭27年(う)1385号・昭27年(う)1381号・昭27年(う)1382号・昭27年(う)1386号 判決

論旨は、要するに、被告人等はいずれも職業安定法施行以前から名古屋造船株式会社との間に各自に請負契約を締結し、自ら労働者を使用して請負作業の達成に力めて来たもので、これ等請負契約はいずれも職業安定法施行規則第四条第一項各号の要件を十分充たせるものと認めらるべきものであり、従つて同請負契約は職業安定法施行後もそのまま引続き適法有効に存続し得たものであり、被告人等を職業安定法第四十四条にいわゆる労働者の供給事業を行つていたものと見るのは明かに不当である。たゞ被告人等は職業安定法施行後、それまで各自に使用して来た労働者を会社の直傭労働者に切換えた事実はあるが、右は前記関係法規の解釈につき格別に窮屈な見解をとる所轄監督官庁の名古屋市南職業安定所より指示を受けた会社側の申出に応じ会社と被告人等との間で単に形式的にとられた措置に止まり、これにより会社と被告人等との間の請負契約の実質実体には従来といささかの変りもなく、その後被告人等が架空労働者の賃金名下に会社より受領していたのは、その形式に拘らずその実質は従来と変りのない請負代金の受領で、原判示の如くこれを他人の就業に介入して挙げた利得と見るのは事実の誤認である。そして被告人等使用の労働者を会社の直傭労働者に切換えたのは、前記の如く単に監督官庁の指示に従つたまでのことで、被告人等には原判示にいう如くこれにより職業安定法の適用を潜ろうというが如き意図は全く無かつたものであるが、若し前記の通り直傭労働者に切換の形式をとつたが為に被告人等が架空労働者の賃金名下に利得を得たのは脱法違法の行為視せらるゝものとなるとせば、右は正に誤れる監督官庁の指示に従つたが為に起された事犯というべく、右事態につき原判決の如く被告人等に責任ありとして有罪判決を為すのは不当と信ずる。なお以上が理由ないとしても原判決に被告人等に於て他人の就業に介入して利益を得たと判示せられたものの内には明らかに被告人等が請負人として負担すべき工具の使用料その他の事業経費、労働者に支給せる旅費等の実費、被告人等自身の技能や労働に対する報酬等他人の就業に介入したことによる利益と明らかに区別せらるべき対価、立替金、報酬等を包含せるものであるから、これ等を区別して控除せず、被告人等の利得の一切をすべて他人の就業に介入して得た利益とした原審の認定は失当で、原判決は結局法律の解釈適用を誤り事実を誤認した瑕疵があるものとして破棄を免れないというに在る。

然し被告人等が原判示の通り夫々職業安定法にいわゆる労働者供給事業を行い他人の就業に介入して利益を得ていたものであることは原判決挙示の各関係証拠を綜合すれば優に認定し得るところで、所論引用の証拠は勿論、記録並に原審取調の爾余の各証拠を斟酌検討するも、所論の如く原審が法律の解釈適用を誤り事実を誤認したと認むべきところはない。即ち、弁護人は被告人等が名古屋造船株式会社との間に、被告人等使用の労働者を会社の直傭労働者に改める以前における会社との間の各自の請負契約は職業安定法施行後もその適法有効な契約として存続し得たものであるというのをその所論全般に亘る論拠とするものであるが、職業安定法第四十四条に労働者供給事業の禁止を規定し、更に同法施行規則第四条を置いて請負契約の形式をとつているものであつても、同規則第一項各号の要件を併せ具備する場合でなければ、これを労働者供給事業を行うものと認めるとしているのは、これによつて使用者と労働者との中間に立つて賃金その他労働者の受ける利益の一部をはねることを仕事としているものを出来得る限り排斥して、使用者と労働者との間に近代的労働関係を打ち立てようと意図したものであることは明白であり、本件犯行当時施行の職業安定法施行規則第四条第一項第四号には、

「自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡単な工具を除く。)若しくは作業に必要な材料、資材を使用し又は専門的な企画、技術を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。」

とあつて、請負人が本号の要求を充たしているものと認めるには単に肉体的労働力を提供するだけでは足らず、その請負作業の達成につき(1)必要な機械、設備、器材(業務上必要なる簡単な工具を除く)を自ら提供して使用するか、(2)必要な材料、資材を自ら提供して使用するか、(3)専門的な企画、技術を必要とするものであること、即ち少くも右(1)乃至(3)のいずれか一つを充足するものであることを要するものと解すべく、従つて被告人等が若し右(3)にいわゆる専門的な企画、技術の所有者であると認められるに於ては、たとえ右(1)(2)には該当しなくても前記職業安定法施行規則第四条第一項第四号の要件を充たすものと認めらるべきものであることは弁護人所論の通りであるが、右規定内容や関係法規全般から考え前記(3)にいうところの「専門的な企画、技術」とは普通熟練工と呼ばれる者が通常有する程度の企画能力や技術をいうものではなく、それより相当高度の専門的なそれをいい、請負人がかかる能力、技術を有していて始めてその請負作業を運営遂行し得る如き作業内容のものでなければならぬとするものと解すべきで、これを本件について考えるに、前顕各証拠によれば、被告人等はこれを単に一介の労働者として見れば夫々造船各部門の熟練工の名には値しようが未だその請負つたとせられる作業を全般的に企画運営するに足る能力はなく、現実には右作業はいずれも会社側の全般的な企画、指揮の下に運営せられていたものであると認められ、しかもその請負つたとせられる作業につき被告人等が前記(1)(2)の要件を充たしていた事実は認め得られないので、被告人等が職業安定法施行規則第四条第一項第四号の条件を充足せるものであるとの弁護人の所論は採用し得ないところというの外なく、しかも右職業安定法施行規則第四条第一項には、請負が職業安定法上の労働者供給事業と認められないために前記第四号と同時に請負人の具備すべき要件として第一号に、

「作業の完成につき事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。」

第三号に、

「作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること。」

の如き規定を置いており、被告人等の請負契約が右第一号、第三号に所定の各要件を十分充たしていたものとは証拠上到底認め難く、原審証人堀幸男の証言に見える名古屋市南職業安定所のこの点に関する法律解釈に格別不当の廉はない。従つて被告人等の従来の請負契約は職業安定法施行後は到底そのまゝ適法有効に存続し得なかつたものというの外はなく、職業安定法施行後右安定所より右請負契約に関し前記会社になされた指示勧告が従来被告人等が使用して来た労働者を形式的に会社直傭の労働者に切換えれば足るという如き脱法行為を認めるが如き趣旨のものでなかつたことは証拠上も明白であるから、会社の直傭労働者に切換えた以後に於ては被告人等は右切替前より一層前記職業安定法施行規則第四条第一項第三号の規定の要求を充たすに遠ざかるに至つたことも証拠上明白であつて、その後に於て被告人等が架空労働者の賃金名下に従前の請負契約に於けると同様の利得を計つていたのは、その名は請負であれ何であれ実体は明かに不法な脱法的に労働者供給事業を営んでいたものというの外はない。そして被告人等がその会社に供給の労働者に弁護人所論の如く旅費を貸したとか、いくらかの工具を提供したとか或は自身も作業現場に出向いて働いたとかの事実があつても、それ等の分を区別せず架空労働者の賃金名下に金員を会社より受取つている以上包括的にその全部を労働基準法第六条に違反して業として他人の就業に介入して得た利益と認めねばならぬから論旨は結局造船業の特殊な性格から来る必要に藉口して独自の解釈に立ち、原審が適法になした事実認定乃至は法律の解釈適用を批難するに過ぎないものというの外はないからすべて採用の限りではない。

(裁判長裁判官 河野重貞 裁判官 高橋嘉平 裁判官 山口正章)

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